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欲望の翼
欲望の翼 (JUGEMレビュー »)

熱帯のジャングルを俯瞰するあの緑色の風景は、飛び続ける『脚のない鳥』の視線のようだ。じわりと汗をかいた男女が、サッカー競技場の売店で『1分間の友人』になる、それは『永遠に続く1分』の始まりだった・・・。

私がレスリー・チャンに激しく恋をするきっかけになった1本。ここから香港映画にのめりこみ、今もレスリーと香港に恋をし続けている。あなたにも、『あの1分』の魔法を、是非。
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うどん屋で日本を知る
日本に着いた彼が一番最初に食べたのは、天ぷらうどん。
揺れっぱなしだったノースウエスト航空のおかげで頭痛がすると言って、夕方少し仮眠したあと、ごはんを食べに出掛けようということになり。


「何が食べたい?」
「なにか、軽いものがいいな・・・たとえばヌードルとか、そういう感じの。うどんなんかどうだろう」


シンガポールから来た人にいきなり「うどん」と言われるとは。心の中で「ぷ」と思いながら、望み通り近所のうどん屋さんに案内した。
暖簾をくぐり、からからと引き戸を開けて、店内へ。木のテーブルと椅子、店の奥にはテレビがあって、数組の客がぼんやりそれを眺めながら食べている、にこやかなおばちゃんが「いらっしゃいませ〜!」と明るく挨拶する、寡黙なおじちゃんが注文されたものを黙って作り続けている、そういうどこにでもあるうどん屋さん。彼は机の上のメニューを見て、ふと考え込み、それから言った。


「ここは本当に日本人のためのお店なんだねえ」
「うん。そうだけど・・・?」
「メニューには日本語しか書いてない、英語なし。旅行者がこの店で食べるのは難しいだろうなあ」
「ああ、そうね、読めないもんね(笑)」
「多分僕はこの店に来た初めての外国人だな(笑)」
「だと思う、私も見たことない」


彼は初め天ぷらうどんを食べたいと言ったが、ちょっと待って、表のショーケースを見てくる、と言って、からからと戸を開けて覗きに出た。しばらくして戻ってきて、やっぱり天ぷらうどんでいい、と言うので、天ぷらうどんを2つ注文した。


やがておばちゃんがお膳に載ったうどんを運んできた。「はいお待たせしました〜、熱いからねえ、気を付けてくださいねえ」私も「はいどうも〜」と返事しながら受け取る。小皿に盛ったねぎを彼のうどんにかけてあげて、はい、と七味を渡す。「これはチリ?」と訊ねる彼に頷くと、彼はちょいちょいと、とても日本人らしい量をかけた。


私はというと、豪快に七味を振りかけまくる。彼はその赤く染まった私のうどんをちらりと見て、何か考える顔をしたので、私は心の中でひとり吹き出していた。これでは私の方がアジアから来た旅行者みたいだ。


私が手を合わせて「いただきまーす」と言うと、彼も「イタダキマス」と言った。なんでだか知らないが、彼の「イタダキマス」の発音は素晴らしい。彼がぽろりと数少ない日本語の単語を口にするとき、その外国人とは思えない自然な発音によくびっくりさせられる。何度か彼からの国際電話にも騙された。あまりに上手に「もしもし」と言うものだから、取ってしばらく彼だとはわからなかったりしたのだった。


彼は右手に箸を、左手に陶器の匙を持ち、匙の上に箸でうどんをのせ、汁と共に口に運んで食べる。その食べ方を見て私は、「ああ、アジアの人の食べ方だなあ」と思った。私はごく一般の日本人の食べ方、箸だけでつるつると口に運ぶ。彼は「オイシイ」と日本語で何度も呟きながら黙々と食べた。実際ここのうどんは美味しかった。


静かに過ぎる食事の時間。日本の、東京の片隅の、どこにでもあるようなうどん屋さんで、向かい合って食べる、国の違う2人。でもこうしていると、彼がシンガポールの人だという感覚が、遠く薄くなっていく。まさか日本人だとは思わないけど、ただそのとき目の前に居るのは好きな人で、その人と心地良い食事の時間を共にしているということだけ、それだけが重要なことだった、そんな感じ。


途中、何人か客の出入りがあった。お勘定を払って出て行く人、新しく入って来て座る人。彼はその様子をしばらく眺めていて、それからこう言った。


「素晴らしい・・・日本人てのはなんて礼儀正しい人達なんだろう」
「・・・???礼儀正しい???」
「うん。グッドマナーだよ。まずお客が入って来るだろう、そしたら必ず『いらっしゃいませ』と言う。それからお金を払って出て行くときは『ありがとうございました』と言う。互いに笑顔で挨拶をして、素晴らしい文化だ」


私は「・・・へぇ・・・」と言ったまま、きょとんとしていた。私にしてみれば、それは日常のありふれた風景のひとつで、そこまで素晴らしいと感激したことはなかったからだ。だが、彼は真面目に感心している様子だった。


「シンガポールでは、客に向かって『ありがとうございました』なんて言わないよ。金を払ったら『もう貰うもんは貰ったからさっさと出て行け』って態度だ。わずかに客に親切にしてくれるのは、ホテルの中のレストランくらいだね。でもそれも、チップを払った上でのことだからね。普通の街中の店では、チップがあっても態度はひどいもんだ。ちなみに、香港はシンガポールよりもっとひどいよ」


ああ、なるほど。言われてみれば、そんなこともあったなあ、と思い出した。私が昔初めてシンガポールを訪れたときの感想は、「なんでお前らそんなにせかせかしてて不機嫌そうなんだ??」だった。ここは東京と変わらないなあ・・・と、ちょっと殺伐とした印象を持った旅だった。その後何度も訪れる中であたたかく楽しい経験もして、今では最初の冷たくきつい印象は薄れてしまったのだが。


彼はその後も店内の人々の様子を観察し、小声で「いらっしゃいませー」とか「ありがとうございましたー」とか真似をしては、素晴らしい文化だ、と何度も繰り返した。どうやら本気で感心しているらしい、と笑いを堪えながら、もたもたと食べる私。食べ終わる頃私は、うどんの熱さと大量の七味の逆襲に遭い、鼻水をずるずるさせていた。が、そのとき彼はすっと立ち上がり、店内のティッシュボックスから数枚ティッシュを引き抜いてきて、黙って私に手渡してくれたのだった。


ありがと、と受け取って洟をかみながら、日本人もびっくりの気の利きようだな・・・と考える私。段々、ナニジンとドコの国に居るのだかわからなくなってきた。


お茶を飲んでいると、私達の横を通って、店のおじちゃんが外に出た。暖簾を中に仕舞っている。彼はそれを見て「・・・??」という顔を私に向けたので、「ああ、もうすぐ閉店なのね」と返事した。「・・・あれを中に入れるとクローズって意味なのか?」と言われて頷くと、彼は興味深げに暖簾を眺めた。私はそんな彼を見ながら、なるほどな、とあらためて考えていた。私が普段気にも留めない日常的なことが、彼には物珍しい異文化なのだ。日本語だけのメニューも、いらっしゃいませも、ありがとうございましたも、暖簾を仕舞うことも。


お勘定を払う段になり、「ごちそうさま〜」と声を掛けてレジに立つ私。「はいはいはい」とおばちゃんが出てきて、支払いをする。


「はい○○円ね、じゃ○○円お釣りね〜。おうどん、熱かったでしょお?大丈夫だった〜?」
「ああ、すごく美味しかったですよ、ごちそうさま」
「あそう、良かったわ〜。どうもありがとうございました〜、お気を付けて、またおいでくださいね〜!」


引き戸を開けて出るとき、後ろから再度「ありがとうございました〜!」の声。彼は帰る道々、いらっしゃいませー、ありがとうございましたー、とまた何度も繰り返して真似をし、「素晴らしい文化だ、とても気分が良いよ」と楽しそうに笑った。彼のその顔を見ていると、なんだか私もあらためて日本が好きだと思えてきて、彼と一緒に『うどん屋さんごっこ』をしてげらげら笑いながら歩いた。
| Love | 01:56 | comments(4) | trackbacks(0) |
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コメント
読み終えて、あぁ@私も何だか日本が好きだと思えてきました♪

うどん屋さんごっこ してみようかな?
この辺じゃ
『いらっしゃいませ〜』『おぉきにぃ』
かな^^
| koto | 2004/12/17 1:34 PM |
>kotoさん
お、kotoさんは西の方ですね!
私も西の出身なんですよ(笑

ねー、なんか慣れちゃって気付かずにいた日本の良さを教えられて、嬉しくなっちゃいますよね〜。こういうのってほんわか楽しい。
| dear | 2004/12/17 11:08 PM |
死ぬほどうどんが食べたくなりましたあああああ(泣)。こういうお店で食べてみたい!

| みら | 2004/12/17 11:56 PM |
>みらしゃん
私はみらしゃんの手打ちらーめん食べてみたい・・・。
むぅ、みらブログのらーめん写真見てこようっと。
| dear | 2004/12/19 11:47 PM |
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